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2021.11.12

がん細胞をエネルギー切れにさせ、細胞死を導く化合物の発見(応用バイオ科学科/健康生命科学研究所 准教授 井上英樹)

応用バイオ科学科/健康生命科学研究所 井上英樹 准教授

ハーブティーやのどスプレー成分のグアイアズレンを改変した化合物TATがミトコンドリアの呼吸を抑えることでがん細胞をエネルギー切れにさせ、細胞死を導く作用を発見
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高齢化が進むわが国では2人に1人はがんになっています。がんの治療法の一つに抗がん剤を用いた化学療法がありますが、これまでの抗がん剤では完全にがん細胞を死滅させられないことがあります。その結果、抗がん剤に耐性を持ってしまうがん細胞が現れてしまうと治療が困難となります。そこで、抗がん剤に耐性を持ちにくくするため、細胞が共通してエネルギー獲得に用いるミトコンドリア呼吸を標的とする新しい抗がん剤が注目されています。

健康生命科学研究所では、グアイアズレンを改変した化合物、1,2,3,4- tetrahydroazuleno[1,2-b] tropone (TAT)がミトコンドリア呼吸のはたらきを抑えてがん細胞を細胞死させることを見出しました。

グアイアズレンはきれいな青色の化合物で、ハーブティーなどにも含まれます。グアイアズレン系の化合物は抗酸化作用を持つことからのどスプレーなどに利用されていますが、それ以外のはたらきは知られていませんでした。研究グループでさまざまなグアイアズレン系の化合物を合成し、それらの生理的なはたらきを調べたところ、TATががん細胞を細胞死させることを見出しました。詳しく調べたところ、TATがミトコンドリアの活性を低下させることを見出しました。ミトコンドリアは“細胞のエネルギー産生工場”と呼ばれ、呼吸によって“生体のエネルギー通貨“であるATP(アデノシン三リン酸)を産生する細胞小器官です。そこで、ATP産生量を測定した結果、TATを与えた細胞ではATPの産生が大きく減少しました。さらに詳しく調べた結果、TATはミトコンドリアの電子伝達系のはたらきを阻害することがわかりました。

以上の結果から、TATがミトコンドリアのはたらきを抑え、細胞をエネルギー切れにさせることでがん細胞を細胞死させることが分かりました。TATはがん細胞が細胞死する濃度で正常細胞は死ななかったことから、エネルギー消費の多いがん細胞に強く作用するのではないかと考えられます。このことからTATの抗がん剤としての可能性が期待されます。この成果は国際誌FEBS Open Bioに掲載されました(https://doi.org/10.1002/2211-5463.13215)。


応用バイオ科学科 老化・疾患生物学研究室(井上 英樹研究室)

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