ビタミンEで体に良い細胞を増やし、生活習慣病を減らす(健康生命科学研究所/管理栄養学科 教授 清瀬千佳子)
健康寿命とは、介護などの支援がなくても自立して生活できる期間を指します。日本人の平均寿命は男性が約81歳、女性が約87歳ですが、健康寿命は男性が約73歳、女性が約75歳で、男女差はあるものの約10年の違いがあります。健康生命科学研究所は、人々が年をとっても健康状態を保つことを目指した研究を行っています。今回は生活習慣病のリスクを減らすための研究をしている清瀬千佳子教授の研究を紹介します。

管理栄養学科
清瀬千佳子 教授
体に良いベージュ脂肪細胞をビタミンEで増やす
肥満は糖尿病や脂肪肝などの生活習慣病を引き起こし、健康寿命を縮めます。清瀬教授は、食品成分であるビタミンEとその類似物質(ビタミンE同族体)が、肥満を減らして体に良い細胞を増やす可能性に着目しています。
脂肪細胞には肥満の原因となる白色脂肪細胞のほかに、熱産生して抗肥満に働く褐色脂肪細胞があります。褐色脂肪細胞は熱を発生してエネルギー消費することにより肥満を減らしますが、抗肥満に加えて、他のしくみでも生活習慣病を減らすはたらきがあることがわかり、最近注目されています。
白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞はその起源となる幹細胞が違うのですが、白色脂肪細胞の幹細胞(白色脂肪細胞のもととなる細胞)は、運動や寒冷刺激などで褐色脂肪細胞に似たベージュ脂肪細胞に分化することが2012年に報告されました(図1)。ベージュ脂肪細胞は褐色脂肪細胞と同じような機能を持つため、体の中でベージュ脂肪細胞を増やすことができれば、肥満の抑制や生活習慣病のリスク減少につなげることができると考えられます。清瀬教授は、ビタミンE同族体がベージュ脂肪細胞を増やす可能性を見出し、マウスの細胞を用いて研究を進めています。食品成分で脂肪細胞の分化をコントロールしようというアイデアは、清瀬教授が考えた新しい発想です。

図1 ベージュ脂肪細胞への分化
ビタミンE同族体δ-トコフェロールで培養細胞のベージュ化に成功
ビタミンEは1922年に発見された脂溶性ビタミンで、私たちの健康に欠かせない栄養素です。ビタミンEには8種類の同族体があり、主に植物油や種子類に含まれています。中でもα-トコフェロールは最もよく知られており、医薬品や食品添加物として広く利用されています。一方、他の7種類は研究が十分に進んでいません。そこで清瀬教授は、脂肪細胞の分化に対する効果を7種類で比べることにしました。通常、細胞の分化を調べるには、分化した細胞のみで働く遺伝子の発現量(mRNAの量)を比べます。ベージュ脂肪細胞は褐色脂肪細胞と同様に熱産生に働くため、熱産生にはたらくサーモゲニン遺伝子(UCP1遺伝子)を用いて比べました。
マウスの前駆脂肪細胞(3T3-L1細胞)にさまざまなビタミンE同族体を添加した際に、UCP1遺伝子が発現するかを調べました。もしもUCP1遺伝子が発現していれば、脂肪細胞がベージュ脂肪細胞へ分化したと考えられます。実験の結果、δ-トコフェロールを添加した場合、UCP1の遺伝子発現が大きく増加することがわかりました。この効果は、既知のベージュ化誘導物質であるロジグリタゾンと同等、またはそれ以上でした(図2)。この実験から、ビタミンE同族体の中でδ-トコフェロールは脂肪細胞のベージュ化を誘導することが示されました。さらに、δ-トコフェロールがどのようにして分化誘導に働くか調べたところ、転写因子(遺伝子発現をコントロールする遺伝子)を活性化することにより分化を引き起こすことがわかりました。

図2 ベージュ脂肪細胞への分化に対するδ-トコフェロール(ビタミンE同族体)の効果
サプリメント開発に向けて
本研究により、ビタミンEの中でもδ-トコフェロールが白色脂肪細胞をベージュ化させ、熱産生を促す可能性が示されました。これは、体内に白色脂肪が存在していても、ベージュ脂肪細胞を増やすことによりエネルギー消費を高められる可能性があることを意味します。
次のステップとして、動物の個体にδ-トコフェロールを投与したときに効果があることを証明することが必要と考えられます。白色脂肪細胞のベージュ化への誘導には「運動」という物理的な因子も関わっていることから、マウスに自由運動をさせると同時にδ-トコフェロールが入った混餌飼料を食べさせることで、どのような効果が得られるか検討しています。動物実験での効果が示されれば、サプリメント開発へとさらなる一歩前進できるでしょう。
▼本件に関する問い合わせ先
研究推進機構 研究広報部門
E-mail:ken-koho@mlst.kanagawa-it.ac.jp











