区画を跨いだBGMによる空間演出(情報メディア学科/ヒューマンメディア研究センター 准教授 黒川 真毅)
情報メディア学科/ヒューマンメディア研究センター 黒川 真毅 准教授
BGMによる空間演出をするとき、店内などで区画ごとに別々な演出を必要とする場合があります。ところが、音は明確に区切ることができず、混ざり合ってしまいます。そのような環境でも様々な演出を可能とするBGM制作アプローチの研究です。
コンテンツにおけるサウンドの役割は様々であり、コンテンツとの結びつき方によっても、再生環境や役割が変わってきます。書店の店内BGMを例に挙げると、書店としてのBGMと考えれば自ずと役割として必要とされる雰囲気は限られてきます。しかし店内には、「雑誌」「漫画」「小説」「専門書」などの区画があり、細かく分類するとそれぞれに見合うBGMは違う雰囲気となります。ところが、音は再生装置から球状に広がるため、再生装置どうしの距離を大きくとるか、物理的な仕切りを設けない限り、音は混ざり合ってしまいます。想定していない曲どうしが混ざってしまうと、不協和音となり音楽として破たんし、音としても不快なものとなってしまいます。そのため、細かい区画で分けられた店内に、それぞれに向けたBGMを再生されることはあまりありません。
一方、視点を音楽に向けてみると、テンポとコード進行が同じ楽曲であれば、数曲を同時に再生しても、不協和音にならず音楽的な破たんは起こしにくいという性質があります。また、音楽のジャンルを含め、雰囲気を作り出しているのは、メロディやコードよりも、実は編曲(アレンジ)によるところが大きいものです。BGMを制作するうえで、雰囲気を作り出す編曲のための要素は次のとおりです。
・楽器の種類や数
・楽器の音色のもつ雰囲気やその組合せ
・リズムアレンジによって感じる速度感
これらを使い分けたBGM数曲について、多チャンネルサラウンドシステムを使用して同時に再生することで、細分化された区画ごとのBGMでありながら、他の区画のBGMが混ざって聞こえても不快にならないBGMによる空間演出をすることが可能となります。その効果として、その区画での販売意欲促進だけでなく、他の区画への意識の誘導も見込まれ、案内としての役割も見いだせると考えられます。
制作や再生にはPCと多チャンネルサラウンド環境を用い、多様なソフトウェアシンセサイザやエフェクタで、繊細に音色や音場空間を操作することで、それぞれの区画の特色を表現しつつ、居心地の良い空間を演出することも可能となり、店内全体の音の空間演出も質の高いものとすることが可能となります。