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見えない医療操作を"手ごたえ"で再現する ー安全な医療を支える4つの技術開発ー(先端工学研究センター 医療・生命・栄養研究室/臨床工学科 金 大永 教授)

医療現場では、体の内部を直接見ずに、想像しながら器具を操作する場面が数多くあります。例えば、針を血管へ進めたり、臓器に適切な力を加えたり、心臓へ電気刺激を与えたりする操作です。これらは経験に頼る部分が大きく、初心者や学生にとって習得が難しい領域です。本研究室では、こうした"見えない医療操作"を科学的に再現し、安全で確実な医療を支えるための4つの技術開発に取り組んでいます。

臨床工学科の卒論生を中心にチームを組み、学生たちは在学中から学会で積極的に発表しています。卒業後も研究に関わり続ける学生が多く、継続的な研究体制が確立されています。さらに、東京大学をはじめ、名古屋工業大学・福岡工業大学・大分大学との共同研究により、医学・工学・教育の知見を融合した強力な研究基盤を築いています。

臨床工学科 金大永教授

背景|"医療の難しさは、体の中が見えないことにある"

医療現場では、針を血管へ進めたり、臓器に適切な力を加えたり、心臓に電気刺激を与えたりするなど体の内部を想像しながら操作する場面が多くあります。しかし、
✓ 針を刺したときの手ごたえ
✓ 血管を通過するときの抵抗感
✓ 臓器に力を加えた際の変形特性
✓ 心臓が電気刺激に示す反応
といった情報は、経験だけで身につけることは容易ではありません。
そこで、これらの"見えない現象"を科学的に捉え、医療の安全性を高めるために研究を進めています。

研究室のポリシー|"学部生のときから自分の手で設計したものを作って、評価する。そして、医工連携の軸となるエンジニアを育てる"

世界はAIの進歩によって産業・研究全分野において大きく、そして早く変わっています。その中でも、フィジカルAI(現実世界で自律的に判断・行動できるAI技術で、ロボットなどの物理的なデバイスを動かすことができる人工知能)は次世代の原動力となります。しかし、残念ながら日本が強みとしてきた「ものづくり」は、若い世代の中ではあまり人気がないのも確かです。「ものづくり」には、様々な力学や工学全般の知識が必要となりますが、より良いものを作るためには、AIでは補えない人間の「感性」が必要だと私は信じています。本学科は国家資格を目指す学科でもあり、修士まで進学した学生はいませんが、就職してからも臨床経験を活かして一緒に研究を続けています。これは、私が夢見ていた理想の研究室のあり方でもあります。

研究内容・成果|"医療の手ごたえを再現する技術をつくる"研究

①穿刺の手ごたえを再現するトレーニングシステム

検査や治療を目的に、体外から血管・体腔内・臓器などに注射針などの細い器具を刺し入れる『穿刺(せんし)』は難易度が高く、習得には練習が必要です。しかし、実際の超音波装置やリアルモデルは高価で、繰り返し使うことが困難です。そこで、私たちは皮膚や血管の感触を再現できるハプティック(人間の触覚や力覚をデジタル技術で再現・体験させる技術)機能付きトレーニングシステムを開発しました。皮膚や血管を通過するときの手ごたえや抵抗感、シャントの特徴などを再現でき、初心者でも安全に練習できます。また熟練者のスキル向上にも活用できます。(大分大学の梅田助教や多数の医療機関との共同研究)

写真1 エコーガイド下穿刺マニピュレータ・トレーニングシステム

本研究室の卒論では、シンプルな構造の穿刺ハプティックデバイスの開発(写真2)や、マグネットを使った低コストな位置計測手法を開発し、プローブの動きを高精度で解析できるようになりました(写真3)。

写真2 穿刺ハプティックデバイス

写真3 マグネットを使った低コストな位置計測手法

また、振動子アレイによる触覚誘導システムも導入し、手首に伝わる振動で「どちらに動けばよいか」を知らせることで、操作精度が向上することを確認しました(写真4)。

写真4 振動子アレイによる触覚誘導システム

②鉗子操作を安全に支えるデバイス開発

鉗子(かんし)は手術で使用する小さなハサミのようなもので、狭い体内空間で手の代わりとなり、内視鏡を使う手術では欠かせません。近年では、この鉗子をロボットで操作する手術支援システムも普及しており、手術支援ロボットとして広く知られているものに「da Vinci」があります。しかし、小規模な医療機関では大型のロボットを導入・運用することが容易ではないのが現状です。そこで、外科医が使用する鉗子に少しの工夫を加えることで、必要以上の力が加わったときにその力を抑制できるデバイスを開発しました(写真5)。(福岡工業大学 李教授との共同研究)

写真5 必要以上の力を抑制可能な鉗子

また、その効果を定量的に評価することを目的として、鉗子操作の熟練度を評価するシステムの開発を継続しています(写真6)。

写真6 鉗子操作の熟練度を評価するシステム

③膵臓圧縮時の安全性を高める制御技術

東京大学 小林教授が研究代表者を務める共同研究に参画し、膵臓圧縮時の安全性向上に関する研究を進めています。膵臓は非常に柔らかく、圧縮によって損傷しやすい臓器です。膵臓の一部を切除する手術(膵体尾部切除術)ではステープラー(組織を切断・縫合する医療器具)で膵臓を圧縮しますが、術後に膵液が漏れ出す「膵液漏」という重大な合併症が起こることがあります。そこで、膵臓を圧縮したときの
✓ 反力
✓ 内部圧力
✓ 膵膜の変形
を同時に計測できるシステムを構築し、ブタ膵や臨床膵を用いて実験を行いました。その結果、損傷が起こるタイミングを判断できる指標が得られ、膵液漏を防ぐための新しいステープラーデバイスの開発につながる知見が得られました(図1)。

図 1 ブタ膵を使った実験

④ペースメーカの仕組みを学ぶ学習システム

心臓の電気刺激は、教科書だけでは理解が難しい分野です。そこで、ペースメーカの動作を視覚・触覚で理解できる学習シミュレータを開発しました。心臓の動き、心電図、ペースメーカの反応を同時に提示することで、学生が直感的に理解できるように設計しています。さらに、ペアワークを導入することで、学習効率が向上することも確認しました。(本学 根津研究員との共同研究)

写真7 ペースメーカの仕組みを学ぶシミュレータ

今後の展開|"医療の安全をアップデートし続ける研究チーム"

今後は、4つの研究を統合し、AIやロボット・臨床データを組み合わせた"安全操作支援システム"の開発を進めます。また、臨床工学技士や医療系学生が、医療と工学を同時に学べる教材やトレーニング装置の整備にも取り組みます。教え子たちと協力しながら、医療の安全を科学でアップデートする研究を続けていきます。

▼本件に関する問い合わせ先
研究推進機構 研究広報部門
E-mail:ken-koho@mlst.kanagawa-it.ac.jp

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