先進技術研究所

第三期テーマ 成果概要

健康寿命を延伸する共生型ロボットAIの研究開発

研究代表者ロボット・メカトロニクス学科 三枝 亮准教授
研究開発体制ロボット・メカトロニクス学科 高尾秀伸教授、情報メディア学科 上田麻理准教授、管理栄養学科 饗場直美教授

研究背景

少子高齢の時代を迎えた日本は2025年の「国民の健康寿命が延伸する社会」の構築を目指し、「高齢者介護の介護予防」「現役世代からの健康づくり対策」「医療資源の有効活用に向けた取組」を柱とする予防・健康管理の施策を推進している。諸外国においても、人々の心身機能、栄養状態、社会参加を改善することで健康寿命を延伸させようとする研究が幅広く行われている。しかしながら、これらの現行の研究では健康寿命を延伸させる直接的な効果は期待できるものの生活者本人の視点が欠けており、自己の健康状態への意識や生活への意欲・肯定感を高める術は十分に検討されていない。生活者の健康状態の認知や意識が高まり、健康に至る行動や意欲が自然と生まれるような生活の在り方、環境の作り方は未知である。

人々の健康寿命が自助的に延伸するためにはこれらの問いを科学的に解き明かし、少子高齢社会を支えるための技術基盤を整備する必要がある。人間の寿命は人類史を振り返ると科学技術上の発見や発明と深いつながりがある。火器や鉄器により生活手段や生活環境が変革して栄養状態が高まり、顕微鏡の発明や製薬の技術によって人間の寿命が延びた。計算通信の技術が発達した現代では、CTやMRIに続いてロボットやAIが診断や診療の現場に導入されつつある。しかしながら、手術や診断を支援するロボットAIは医療従事者が用いる器具の延長線上にあり、細胞や臓器への微視的な作用に留まっている。次世代のロボットAIでは生活者や患者の意志に能動的に作用し、人間の行動や心理といった巨視的なシステムにも適用領域を拡大していくことが望まれる。

研究目的

本研究は、共生型ロボット AI が人集団の行動を機械学習して模倣的に同調介入することで、個人に内在する健康特性を強化することを目的とする。これまでの介護・医療・障がい者施設における実証試験より、共生型ロボット AI が相互作用することで人集団の行動や知覚に変容を及ぼすことが分かってきた。例えば、ロボットが介護施設内で生活する認知症患者に付き添って見守ることで患者が施設内を自由に徘徊できるようになると、夜間の不眠や不穏行動が改善する場合がある。また、患者に付帯したセンサーから排せつの予測信号を受けてロボットが患者をトイレへ誘導することで、排せつの習慣ができて患者に排せつの知覚が戻ることがある。このようにロボット AI、センサネットワーク、ヒューマンインタフェース、クラウドシステムが人集団に同調介入して、生活者本人から健康特性を高める行動や心理を引き出すことで、自助的に健康寿命を延伸させることが本研究のねらいである。

共生型ロボット AI と人集団が相互作用する場面として、本研究では「歩行」、「会話」、「食事」の三場面に着目する。歩行の場面では全身運動、体性感覚、平衡感覚などについて、会話の場面では状況認知、聴覚、視覚などについて、食事の場面では咀嚼、味覚、嗅覚、触覚などについて同調介入することを試みる。人間とロボットの相互作用は近年行われているロボットセラピーと関連が深いが、本研究では認知運動の発達を促す一方で最終的にはロボットへの依存を断ち切るように介入度を制御する点で相違があり、ロボットは未来の別れを前提として人間の発達を支援する。

図1 研究概要
図1 研究概要
図2 研究開発ターゲット
図2 研究開発ターゲット

研究内容

本研究では「歩行」、「会話」、「食事」の三場面に対応した研究開発ターゲット(T1、T2、T3)を設定し、各場面で人集団への同調介入を実現する AI アプリケーションシステムを試作する。開発したシステムは本研究の基盤技術である共生型ロボット「ルチア」、「くるみ」などの機体に搭載して、介護施設、デイサービス施設、病院、在宅環境などの現場で機能評価を行う。研究開発の実施体制において、研究面では社会福祉法人や医療研究センターが実験評価に協力し、事業面では設備機器メーカーや装置試作メーカーが研究成果物の実利用化を支援する。本研究の終了時に協力機関の現場環境で共生型ロボット AI アプリケーションの実利用を開始することを本研究の最終目標とする。

研究開発ターゲットT1では自立支援リハビリロボットの開発を行い、「歩行リハビリと徘徊支援」と「視線生理計測と行動誘導」をサブテーマとして、共生型ロボットとセンサネットワークによる自立行動の誘導とリハビリの効率化を試みる。研究開発ターゲットT2では声掛け傾聴ヘルスケアシステムの開発を行い、「声掛け傾聴とヘルスケア」と「多群会話と音環境の制御」をサブテーマとして、共生型ロボットとクラウド AI による同調行動とコミュニケーションの活性化を試みる。研究開発ターゲット T3 では食行動支援インターフェースの開発を行い、「口腔運動と食事姿勢の保持」と「感覚補完と食事認知支援」をサブテーマとして、共生型ロボットとインターフェースによる食行動の認知強化と食事満足度の向上を試みる。

研究計画

図3 ロードマップ
図3 ロードマップ

本研究では研究開始時に策定したロードマップに従って研究開発を推進する。各研究開発ターゲットでは実利用化テーマと研究志向テーマを設定し、実用化テーマは研究期間内に実用化検証まで実施し、研究志向テーマは現場調査から試作検証まで実施することを目標とする。研究開発を推進するために研究開発会議や公開セミナーを定期的に開催して研究開発ターゲットの各テーマや学生研究プロジェクトの成果発表を行う。研究所内には共生型ロボットAI ルームと感覚体験ルームを構築し、現場試験前の機能検証や来訪者向けの機器体験スペースとして活用する。

本研究の基盤技術である共生型ロボット「ルチア」と「くるみ」は、これまでの研究で製作された研究モデル機体と普及モデル機体である。ルチアには人対応、見回り、遠隔操作、バイタル運動計測の要素機能が実装されており、口腔、手指、足裏用の感覚運動インターフェースと連動する。くるみは巡回と人検知に機能が特化されており、低コストでの機体運用を実現する。これらのハードウェアに近年発展を遂げているConvolutional NN 型の機械学習システムを導入することで、人間の視線、音声、身振り、感触に模倣的に同調して認知行動に介入する共生型ロボットAI アプリケーションシステムを実現し、人間の健康特性の発達を促す新しい原理を探究する。

図4 共生型ロボットAI
図4 共生型ロボットAI
図5 システム・インターフェース
図5 システム・インターフェース

研究者紹介

ロボット・メカトロニクス学科 三枝 亮准教授
研究代表者
ロボット・メカトロニクス学科
三枝 亮准教授
≫紹介ページ
ロボット・メカトロニクス学科 高尾秀伸教授

ロボット・メカトロニクス学科
高尾秀伸教授
≫紹介ページ
情報メディア学科 上田麻理准教授

情報メディア学科
上田麻理准教授
≫紹介ページ
管理栄養学科 饗場直美教授

管理栄養学科
饗場直美教授
≫紹介ページ