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2018.02.09

全天周映像の研究と創作技術(情報メディア学科 牧奈歩美助教) 

情報メディア学科 牧奈歩美助教

全天周映像とは,360度映像ともよばれ,その場の上下左右360度すべてを記録された映像のことである.本研究は全天周映像によるCG映像制作と質感というテーマで新たな表現を目指し,研究と制作を行う.

近年VR(バーチャルリアリティ)の急速な発展をきっかけに,全天周映像の一種としてフルドーム映像も改めて注目されている.HMD(ヘッドマウントディスプレイ)や全天周カメラなどによりフルドーム映像の制作が身近になったことも一因である.2016年には国際科学映像祭実行委員会がドーム映像ワークショップを複数回実施するなど,フルドーム映像をさらに幅広い可能性をもつメディアへと発展させようとする動きがある.

フルドーム映像とは,全天周映像のうちのひとつである.全天周映像とは,360度映像ともよばれ,その場の上下左右360度すべてを記録された映像のことである.近年はHMDの登場で,鑑賞者は自由な方向で映像を見ることができるため,まるでその場に存在しているかのような体験をすることが可能である.

プラネタリウムが誕生してから近年まで,様々な映像作品が制作され,ドームスクリーンで上映されてきた.これまでは学習を目的とした科学的テーマの作品や,美しい地球上の風景を実写で撮影した作品などが多く発表されてきた.しかし近年は,それらにとどまらず,馬場ふさ子氏による万華鏡をドームいっぱいに表現した抽象的映像作品や,飯田将茂氏による人間の身体や放射線をテーマにした実写による実験的作品など,扱われるテーマはより自由で幅広いものとなっている.さらにはニコニコ動画が,ドームスクリーンでの上映や発表の場を設けることを目的としたニコニコプラネタリウム部を発足し,参加者が初音ミクを登場させたオリジナルのダンスムービーをドーム用に制作し上映するなど,サブカルチャーとドーム映像の新たな結びつきも見受けられる.

上記のような動向がある中で,筆者はドーム映像によるCG映像制作と質感というテーマで新たな表現を目指し,研究と制作を行う.また映像制作においては,ドーム特有の問題点や注意点が存在する.本研究では,これらの問題を解決する方法論を提示しながら映像制作の過程について述べる.

本制作は最終的にフルドームシアターで上映することを目的としている.フルドームでは,観客は半球状の部屋の内側に着席し,横方向に360度,上方向に180度見渡すことになる.現在存在するドームシアターでは直径5メートルの小型なものから直径30メートルの大型のものまで存在する.そして、CGによる微細な質感表現を確実にドームシアターで投影するには、実環境で投影して確認作業を行う必要がある。本制作では東京藝術大学上野校のCOI拠点に設置されているドームシアターでテスト投射をしながら制作を行った.当ドームシアターは直径8メートルであり,その中心に鑑者が経つことを想定し,その位置から見たときに最適な質感表現ができるようテクスチャ等の調整を行った.

1.氷の地表CG制作
まず氷の地表の地面を作成した.キューブ状の星の中で唯一の透明性を持つ地表である.透明性を持つ表面は全体的に蒼く反射し,表面には所々削れたような凹凸を施した.そのため,氷の地面の奥には,他の世界の地表が透けてみえる.また,地上には,まばゆく光る氷の木や花など,植物が生育している.地表の造形及び質感は3DCGソフトAutodesk Mayaで制作し,植物は2Dによるデジタルペイントで制作し,3D空間の中に配置した.氷の地表が透けて他の世界の地表がみえる様子と,植物の生えた地表の様子を図1, 図2に示す.

図 1 氷の地表1

図 2 氷の地表2

2.透明度の調整
氷の地面をどのくらいの透明度に設定するのが適しているかを,実際にドームシアターに投射し,鑑賞者の視点位置に立ち,検証しながら調整した.ここで検証の項目となるのは,透明感を感じられる度合いと,舞台の規模の感じ方である.

透明度の異なるレンダリング結果を4つ出力し,透明度の低いものから高いものへ,①,②,③,④とする(図3).それぞれの出力画像を図に示す.①は透明度が低すぎたため,奥に見えるはずの緑の世界の地表がほとんど認識できなかった.②は,かすかにと奥の地表が認識できるものの,意図していた氷特有の透明感があまり感じられなかった.③は,奥の地表が適度に見えながら,氷らしい透明感も感じられた.④は,明確に奥の地表が認識され,透明感ははっきりと感じられた.一方で,奥の地表がはっきりと見えすぎることで,この舞台そのものの規模がこじんまりとしているように見えてしまい,空間が狭まってしまう感覚が得られてしまう.したがって本制作では,③の透明度を採用した.

図 3 氷の地表 4段階の透明度

3.テクスチャの調整
次に,テクスチャの調整について述べる.氷の表面のテクスチャは,氷の削れたような触感を感じられる凹凸と,平らな部分の質感からなる.平らな部分にも,氷の質感の水を感じられる潤いをさらに細かく表現するために,バンプマップによる凹凸を施した.バンプマップは,プロシージャテクスチャのフラクタルを利用し,ランダムなフラクタル模様状になだらかな凹凸が疑似的に生まれるようにした.テクスチャ模様の細かさによる見え方の違いは, CG空間内におけるそのテクスチャをもつ物体と視点からの距離にも依存する.

したがって、CG空間内のカメラに合わせてテクスチャの微調整を行った後、さらに実環境における投影により見え方の検証を行う.

本制作では,フラクタルのサイズを3段階用意し実環境での検証を行った.その3段階を,フラクタル模様の細かいものから大きいものへ①,②,③とし,出力したレンダリング画像をそれぞれ以下に示す(図4).

図 4 3段階のフラクタル模様サイズを バンプマップに適用したレンダリング結果

これらをそれぞれドームシアターに投射し,実際に鑑賞者が観る位置に立ち,検証を行った.①は,フラクタルの模様が想定よりも細かく見えすぎてしまい,氷が結露か何かで曇っているような見え方をした.また,奥に見える地表が見えにくくなり,透明感が損なわれてしまった.②は,適度に透明感は感じられるものの,フラクタルの模様が明確に見えすぎてしまい,氷面上の水の潤いというよりは,模様の印象が前面に主張されてしまった.③は,透明感も適度に感じられながら,フラクタル模様も,模様そのものの主張ではなく,自然な氷の表面のみずみずしい揺らぎとして認識することができた.ドームマスター形式に出力した画像を図5に示す.

図 5 ドームマスター形式に出力した画像

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